ウナギの脂の乗り具合




○はじめに
ほぼ味の一様な養殖ウナギとは異なり、天然ウナギには極上のものから不味いものまで、様々な個体がいます。そして、 その味の決め手として最も重要なのが脂です。脂の質、乗り具合で、ウナギの良し悪しが決まると言っても過言では ないでしょう。私は2007年〜2008年にかけてウナギを釣り、賞味してきました。その中で得られた結果を元に、 ウナギの脂の乗りについて考察していきます。

【2007年ウナギの脂度】
私はウナギの脂度を5段階で評価することにしました。
脂度 ウナギのようす
5 焼き終えると金串からすっと抜ける。身、皮目ほぼ全体が脂塗れになる。皮は揚げたようにパリッと仕上がる。
4 身、皮目の6〜7割が脂塗れになる。5に比べ若干歯ごたえがある。(脂度4までは身がふっくら仕上がる。)
3 身からはじんわりと脂が染み出るが、皮側はあまり出ない。4よりも歯ごたえがある。
2 ほぼ身側からしか脂が染み出ない。特に大型個体では皮がゴムのようになり不味い。肉の味が強い。
1 焼けば焼くほど水分が蒸発し、身が薄くなる。酷いと“タレ煎餅”状態になる。

この基準で評価し、得られた結果が以下の表です。

日付 河川 全長体重 脂度 日付 河川 全長体重 脂度 日付 河川 全長体重 脂度
5月6日 570mm 7月17日 408mm90g 9月30日 627mm324g
5月21日 557mm250g 9月11日 501mm 10月1日 513mm208g
5月30日 515mm81g 9月11日 455mm 10月1日 498mm170g
6月26日 455mm126g 9月11日 405mm 10月1日 485mm186g
6月26日 418mm86g 9月16日 530mm230g 10月5日 495mm198g
7月3日 628mm440g 9月16日 630mm450g 10月8日 488mm158g
7月5日 413mm93g 9月17日 704mm640g 10月20日 420mm77g
7月6日 575mm374g 9月30日 568mm270g 10月20日 498mm207g
7月17日 460mm124g 9月30日 473mm134g 10月29日 536mm182g


ざっと見て9−10月に脂のよく乗った個体が釣れている事が分かると思いますが、もう少し詳しく見てみるために、 シーズンを前期(5−7月)と後期(9−10月)に分け、グラフ化してみます。


私は脂のよく乗ったウナギがうまみも多く、蒲焼き、白焼きに適していると思っています。
前期には40cm以上の個体のうち、脂度4以上のものが20%しかいませんが、後期には70%と、各段に増加しています。 では、さらに詳しく分析するために、各シーズンのものをサイズ別にしてみます。




(※データ数が少なすぎるため、考察不可)




サイズ別に見てみると、前期では50cm台に比べ40cm台は脂が乗っていない印象があり、これは脂の乗り具合がサイズによる 影響を受けているように思えます。
しかしながら、後期になると40cm台でも脂度4以上の個体が67%を占め(9月16日以降だけで算出すればさらに値は 上昇します)、50cm台では80%、60cm台以上では100%と、たしかに40cm台では少々脂の乗りの悪いものも混じるものの、 前期に比べかなり脂が乗っている事が分かります。

ウナギの脂の乗りは季節的に変化します。ウナギ釣りのシーズンは東海地方では早くて4月下旬くらいから始まり、 真夏には雨がほとんど降らず川が濁らないためあまり釣れず、秋になると再び釣れ始め、10月末〜11月頃まで釣れます。 私の2007年の結果によれば、前期(5〜7月)のウナギの脂の乗りはマチマチで、よく脂の乗った個体は少ないですが、 後期(9〜10月)になると脂の乗った個体が比較的コンスタントに釣れます。後期、すなわち秋になると、 ウナギは産卵のため大量の餌を摂って栄養分を蓄え、海に向って下り始めます。
これらの個体は“クダリ”と呼ばれ、色調は様々ですが、体側が銀化して金属光沢を帯び、腹側の白色が際立つので 他の時期のウナギとは明らかに見た目が異なります。 また、これらの個体は他の時期のウナギに比べ、脂肪を多く合成し蓄えるので必然的に秋には脂の乗ったウナギが多く 釣れる事になります。 そして、私の釣り結果を見ると、このクダリの最良のシーズンは9月16日〜10月5日の期間で、この間には40cm以上の 個体では脂度4以上しか釣れていません。ただこのシーズンは年によって多少変動する可能性が高いです。
クダリの最盛期が終わると脂の乗りは再びバラつき始めます。また、本当の“下りウナギ”は、次第に消化管が縮小退化し、 晩秋には川にはいても釣れなくなってしまいます。もしかしたら脂度がバラつき始めるのは、クダリが餌を摂らなくなり、 海へ下らないウナギが釣れるようになるからかもしれません。
話が少し横に逸れてしまいましたが、私のデータも証明しているとおり、 ウナギの旬は9月中旬〜10月中旬にかけてであると言えるでしょう。土用丑でウナギの消費量が多くなり、 “にわかウナギ釣り師”が増えるのは7月の中旬〜下旬ですが、 脂の乗った美味しいウナギを効率よく釣るには、9月中旬〜10月中旬にウナギ釣りに出かけるのが良いと思います。

【脂度と体重の相関性】
太った大きなウナギは誰が見ても美味しそうです。しかしこの判断は必ずしも当てはまらないようです。
例えば2007年7月3日に釣ったウナギは全長628mm体重440g。9月30日に釣ったほぼ同サイズのウナギが627mm 324gで、明らかに前者の方が重く、美味しいように思えます。しかしながら実際には 前者は脂度2で皮はゴムのように硬く、期待とは裏腹に不味でした。一方の後者は脂度4でした。
また別の例で、10月1日には、498mm170g、485mm186gを釣りましたが、痩せっぽく見えた前者の方が脂が乗っており、 美味しかったです。はじめの例は季節が異なるためその事も一因として考えられますが、2番目の例は同日、同所での 結果であり、他のものについて調べてみても、 太さ(肥満度)と脂の乗り具合に確実な相関は見出せない と考えられました。

【見た目で脂度は判断できるか】
上の例から、外見(太さ)では脂の乗りが判断できない事が分かりました。では、見た目で脂度を判断することは不可能 なのでしょうか。
まず傾向として言えることですが、頭の大きいウナギよりも小さいウナギの方が脂が乗っているようです。 頭の窄まったようなウナギはクチボソと呼ばれ、かつて天然ウナギが市場で広く取引きされていた頃には 上物とされていました。ただしこれも傾向でしかありません。



写真は、2008年に釣った40cm〜50cmほどのウナギを開いたものです。色調が少しずつ違うのが分かりますでしょうか。
ウナギは脂が乗っていれば乗っているほど、身の透明感が無くなり、クリーム色のように見えます。逆に脂が あまり乗っていないと透明感が強く、皮目や血液成分が透けて見えます。これらは一種の脂度判定として使えそうです。 ちなみに、この写真のものは、上から、脂度1、3、2でした。 ただし、大きな個体になればなるほど、身が厚くなり、透明度の判断がし難くなるため、これも限られた条件でしか 使えません。また捌いているときに脂があまり乗っていない(べとべとしない)と思っても、いざ焼いてみると 脂が乗っていた、なんてこともあります。
結局、明確に脂の乗ったウナギを見分けることは、難しいようです。

○参考・引用文献、HP
・ウナギの科学 解明された謎と驚異のバイタリティー 小沢貴和・林征一著 恒星社厚生閣(1999)
・うなぎの本 松井魁著 柴田書店(1982)  
・日本淡水魚類愛護会http://tansuigyo.maxs.jp/



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